第5章 御都合ライアー!【トレイ】
パーティー準備もいよいよ大詰め。
特注のオーブンからは焼きたてのパイが次々と飛び出し、三段重ねのデコレーションケーキは慎重に運ばれていく。
「よし……、今日のパーティーも問題なく始められそうだな。」
エプロンに付着した粉を払い、じんわりと滲んだ汗を手の甲で拭ったトレイの隣で、エースが大げさなため息を吐き出した。
「あー……、疲れた! やっぱ、慣れないことはするもんじゃないわ。」
「なに終わったみたいな言い方をしてるんだ、エース。パーティーの本番はこれからだぞ?」
「いーんすよ、あとはもう楽しむだけだから。」
そう言って壁に寄り掛かったエースは、ポケットから取り出したスマホを弄り始める。
準備はほとんど終わりかけているとはいえ、遊んでいる暇はない。
やんわりと注意をしようとしたところで、おもむろにエースが声を上げた。
「あ、ヒカルのやつ、ちゃーんとウチに来てるじゃん。」
「……ヒカルが?パーティーに来てくれるにしても、早いんじゃないか?」
うっかりヒカルの名前に反応してしまえば、ちらりとエースが視線を上げる。
その目がどこか嬉しそうに見えて、嫌な予感がした。
「暇なら手伝ってくれってお願いしたんすよ。だってほら、猫の手だって借りたいでしょ?」
「エース。お前、なにか企んでないか?」
妙にこの間からヒカルに関して口を挟んでくるし、下手に掻き混ぜられて彼女の信頼が底辺より下回るのは御免だ。
好きな女性からゴミ屑を眺めるような目で見られ、喜ぶ性癖は断固としてトレイにはない。
「心配してくれる気持ちは嬉しいが、なんというか、その、デリケートな問題なんだ。ヒカルをパーティーに誘ってくれたことは嬉しいが、あまり揶揄わないでくれよ?」
「ひどッ、揶揄ってなんかないっすよ。ただまあ、拗れたな~とは思ってるけど。」
「拗れた、か。そんな単純な問題じゃないんだよ。まあ、すべてに関して俺が悪いんだが。」
干渉されたくないと思いつつ、余計なことを言ってしまったのは、キッチンから人が出払ってエースと二人きりになったせいだろう。
これまで、自分の愚かな行いを懺悔できる人も、恋愛相談にのってくれる人もいなかったから。