第5章 御都合ライアー!【トレイ】
そんなヒカルの気遣いをよそに、グリムは容赦がなかった。
「エースのやつが、準備を手伝わないとウマイもんをなーんも食わせねぇって脅すんだゾ! だからオレ様たち、こうしてわざわざ来てやったんだからな!」
あ、言っちゃった~と思ったときにはもう遅く、理由を知ったリドルの顔はみるみるうちに赤くなっていく。
「伝統あるなんでもない日のパーティーのゲストに、準備を手伝わせようとするなんて……! 誰か、エースをお呼び!!」
「ストップ、ストーーップ! 落ち着いて、リドルくん! 今のはアレだよ、エースのハーツラビュルジョークだって!」
「うちの寮でそんなまぎらわしい冗談は通じないよ!」
「わ、わたしたちの中で流行ってるの! いや~、本気にしちゃったなぁ。一度帰って出直してくるから、それでいいでしょ?」
せっかくのパーティーを台無しにしたくはない。
レベルの低い嘘を重ねながら宥めると、功を奏してリドルの怒りが鎮火した。
「キミも、変な遊びを流行らせないように。……せっかく来たんだ、なにも帰る必要はないよ。席を用意するから、パーティーが始まるまでお茶でも飲んで待っておいで。」
「え、それは気まずい――」
「ぃやったーー! リドル、茶と一緒になにか食いもんも寄越すんだゾ!」
「仕方がないね。なにか適当に用意させるから、おとなしくしているように。」
言うが早いか、リドルは近くにいた寮生に指示してヒカルたちの席を用意してしまった。
忙しく働く寮生の仕事を増やしてしまって申し訳ないし、そんな場所で優雅にお茶を飲んで待っているなんて気まずいことこの上ない。
片や罪悪感の欠片も抱いていなさそうなグリムのあとを追いながら、ちらりと会場内を見回した。
今回もケーキ作りを担当しているであろうトレイの姿は見当たらず、ほっと息を吐く。