第5章 御都合ライアー!【トレイ】
とはいえ、トレイはエースに懺悔したいわけでも、恋愛相談をしたいわけでもなかった。
ただちょっと、ぽろりと零す弱音を聞き流してほしかっただけ。
けれども、トレイの後輩は空気を読んで聞き流してくれるつもりはないらしく、変な顔をしながらスマホを指先でくるりと回す。
少し迷う素振りをしたあと、なにを言い出すのかと思えば。
「聞きたかったんすけど、なんでトレイ先輩、ヒカルのことフッちゃったんすか?」
「……は?」
「あんまり色気とかねーし、人のこと容赦なくこき使ってくるし、どっちかっつーとダチなノリなのはわかりますけど……。」
賛同しかねる。
ヒカルは息を呑むほど艶めかしいし、空気を読んで配慮できる女性だし、友達だなんて思ったこともない。
エースに彼女の魅力を教える気なんてさらさらないけれど、聞き流せない部分がひとつだけ。
「ちょっと待ってくれ。誰が誰をフッたって?」
「誰って、トレイ先輩がヒカルをでしょ? あいつ、そう言ってましたよ?」
「なんだって?」
そんなわけがあるものか。
好きで好きで仕方がないのに、ヒカルをフるなんて天地がひっくり返ってもありえない。
「えっと、もしかして違う感じです……?」
「違うな。ヒカルには、俺がフラれたんだ。」
「え、えぇ!?」
フラれても諦められず、こうしてヒカルのことばかりを考えている女々しい男が今の自分。
あまりにも不憫だから、そんな残酷な嘘をついて庇ってくれているのだろうか。
「おっかしいな、そんなはずないんだけど。いや、でも、トレイ先輩がフッたっていうのもおかしかったし。」
「当たり前だ。好きな人をフるほど、俺は馬鹿じゃないよ。」
「あ、そこは普通に認めちゃうんすね。」
「今さらだからな。」
恐らくエースは、トレイがヒカルを好きなことに気づいていた。
あれほど周囲を牽制し、揃いのスマホまで持たせたのだから気づいて当然とも言える。
だからこそ、彼はここまでお節介を焼く。