第5章 御都合ライアー!【トレイ】
なんとかして断ろう。
何度もそう思いながら、パーティー当日の朝を迎えてしまった。
同じく招待を受けたユウとグリムは朝からウキウキで、どんなケーキが出るのか、お土産は持たせてもらえるのかと会話に花が咲いている。
「やい、ヒカル! なーに暗い顔してるんだ? ご馳走食いまくりのパーティーなんだ、もっと楽しみするんだゾ!」
早く行きたいと地団駄を踏むグリムに叱られ、愛想笑いを貼りつける。
行かないなんて言ったら、それこそ大ブーイングを食らうであろう。
「今日はエースがケーキ担当なんだって。いいとこ見せたいから絶対にヒカルも来てくれって言ってたよ。」
「あー、そういえばそんなこと言ってた気がする。エースが作るケーキかぁ。いや、意外と上手かもね。なんやかんや器用な男だから。」
数日前、珍しく自発的に荷物運びを手伝ってくれたエースが、パーティーでケーキを作るのだと言っていたのを思い出す。
あの時はパーティーに参加するつもりなんかまったくなくて、世間話として流してしまったけれど。
そこまで熱心に誘ってくるなんて、よほど上手にケーキが焼けたのか。
(……違うな、わたしが余計なこと言ったから、心配してるのかも。)
面倒になったからとはいえ、フラれたなんて安易に話すべきじゃなかった。
今日パーティーに行かなかったら、この妙なお膳立てが続いてしまうかもしれない。
話が拗れるくらいならば、気まずさを我慢して出席した方がマシだろう。
「……行くか。」
一度決心をしたならば、楽しまないと損だ。
トレイの件はいったん考えるのをやめにして、気持ちをシフトチェンジする。
自室に戻ったヒカルは、クローゼットの中から着慣れた作業服ではなく、清楚な白いワンピースを手にした。
このワンピースは、ヒカルが記憶を取り戻す前にミステリーショップで購入したもの。
いつか学園の外でトレイとデートをする日のために、こっそりと用意した勝負服。
だが、いざデートの日を迎えてみたら、ヒカルは記憶を取り戻していて、購入時のまっさらな想いは消え失せ、無垢な白いワンピースの袖を通す気にはなれなかった。
出番がないのもかわいそうなので、今日のパーティーで着てあげることに決めた。
白いワンピースは、トランプの世界によく馴染む。