第5章 御都合ライアー!【トレイ】
エースがヒカルをパーティーに招くためにリドルを使ったのは、自分やデュースでは力不足だと判断したためだろう。
リドルがどんな誘い方をしたのかはわからないが、それがエースだった場合、「無理、行かない」とにべもない返答を受けていたはずだ。
そこまでしてエースがヒカルをパーティーに招こうとしたのは、思惑があってのこと。
純粋にパーティーに参加してほしいから……なんて清い心を持つ後輩ではないことくらい、トレイにだってわかっている。
「で? どういう魂胆なんだ?」
ボウルの中に薄力粉をふるいながら尋ねると、チェリーをひと粒つまみ食いをした後輩がわざとらしく肩を竦めた。
「魂胆なんて、そんなのないですよ! ただ、ちょーっと、お節介してやろうかなっていうか、仲直りしてくれたら嬉しいなーって思っただけで。」
「仲直り、な。お前が言うみたいに、簡単に元に戻れたらいいんだが。」
時間を巻き戻せるのであれば、ヒカルが記憶を失った日に戻りたい。
小賢しい嘘などつかず、ヒカルを支え、誠実に愛を伝えればよかった。
あの日、トレイを狂わせたのは、まぎれもなくリドルに対する劣等感のせいだった。
あいつには敵わない。
そんなふうに考えず、真っ当に向き合っていれば、未来は変わっていたかもしれないのに。
「なに難しく考えてるんすか。トレイ先輩らしくもない!」
「……ああ、そうだな。」
自分らしいとは、なんだろう。
面倒見が良いとか、頼りがいがあるとか、お兄ちゃん気質とか、どんな長所も今の自分には当てはまらないような気がして、ひっそりと吐いたため息がボウルの中に落ちて混ざった。