第5章 御都合ライアー!【トレイ】
それにしても、とトレイは思う。
(リドルはなんで、俺に相談もなくヒカルを誘ったんだ?)
これは嫉妬とは関係なく、純粋な疑問だ。
寮長たるリドルが誰を誘おうと問題はない。
問題はないが、リドルは協調性を大事にする真面目な男である。
寮に関わることで行動を起こす時、これまでならトレイにひと言入れてから実行したはずなのに。
「トレイ先輩、チェリーのヘタ取りと種抜き終わりましたけど、次なんかあります?」
「もう終わったのか。早いな、エース。」
「そうっすか? てか、今日のトレイ先輩がおかしいだけでしょ。なんつーか、心ここに在らず?みたいな?」
「……。」
無言は肯定と同義。
下手に誤魔化したところで観察力に優れたエースは騙されないだろうし、トレイ自身、今の自分はボンクラだろうと呆れている。
「なーんか、悩み事でもあるみたい。」
「悩み事というか……、ただの考え事だ。」
「ふぅん? ……あ、そういや明日、ヒカルも来るみたいじゃないですか。よかったすね、トレイ先輩。」
「よかったって、どういう意味だ?」
「どういう意味もなにも……。最近ヒカルに避けられてるんでしょ? 仲直りするきっかけになるかもですし。」
あからさまなヒカルの態度に、オンボロ寮に出入りするエースが気づかぬはずがない。
ふと、彼女がエースにどんな説明をしたのかが気になった。
「ああ、そうなれば嬉しいんだけどな。話せる機会もなくて、正直困ってたんだ。……誘ってくれたリドルには、感謝しなくちゃいけない。」
リドルに向ける想いは感謝であって、間違っても嫉妬なんかしてはいけない。
戒めの意味を込めて吐き出せば、カット済みのチェリーを持ったエースがへらりと笑う。
「え、じゃあ、オレにも感謝してくださいよ。あいつを誘った方がいいって寮長に勧めたの、オレなんすから。」
「お前が……?」
知らなかった事実に目を瞬かせ、同時にリドルが自分に相談しなかった理由を察した。
要領が良く、口が回るエースのことだ、リドルをその気にさせるのもお手のものだったのだろう。