第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ハーツラビュル寮を出て、数日が過ぎた。
あの夜別れた偽物の彼氏とは、一度も話をしていない。
避けていても何度か出くわすことはあって、そのたびにトレイはなにかを言いたそうな顔をしていたが、毅然として視線を合わせなかった。
そうやって、時が流れてしまえばいい。
処女を捨てたあとに残る鈍痛が、今や綺麗さっぱり消えてしまったように、この苦い恋もいつかはきっと消えるだろう。
すべては時間が解決してくれる。
そう思っていたのに。
「え、なんでもない日のパーティーに、わたしも?」
「ああ、是非キミにも来てもらいたい。ホリデーを挟んだから、前回のパーティーからしばらく期間が空いてしまったけれど、その分賑やかにしたいと思っているんだ。」
招待状を手に、直接オンボロ寮までやってきたのはリドルである。
これまでもパーティーに招待されたことはあるが、どちらかといえばユウの付き添い的ポジションで、こうして招待状を貰うのは初めてだったりする。
「嬉しい……けど、ちょっとその日は忙しくて。その、仕事がさ。せっかくだけど、また今度お邪魔するね。」
推しからの誘いを断った理由は、まったくの嘘。
休日に当たるパーティー開催日の予定はゼロで、暇人だ。
でも、副寮長としてトレイはパーティーのホスト的立ち位置にあるだろうし、すでに終わったこととはいえ、ゲストとして顔を合わせるのは時期尚早だろう。
「キミは休日まで忙しいのかい? 日夜業務に携わっているのに、休日まで酷使されるようなら過剰労働として学園長に直訴した方がいい。もし言いにくいのなら、ボクが代弁してあげよう。」
「え!? いや、だ、大丈夫!」
「遠慮はしなくていいよ。キミは一時とはいえ、ハーツラビュルに身を置いていたんだ。休日に息抜きもできないなんて、看過できないよ。大丈夫、ボクに任せて。心おきなく頼ってくれていい。」
「あ、えと、そのぉ……。」
優しげなリドルの眼差しが眩しい。
嘘をついたヒカルの心にざくざく刺さり、ついでに焦る。
その結果。
「よく考えたら、休日まで頑張らなくても終わりそう……かな?」
「そうなのかい? じゃあ、パーティーにも来られそうだね。手が足りなければボクに言うように。」
「……はい。」
嘘に慣れたと思ったけれど、自分の首を絞めるだけであった。
