第5章 御都合ライアー!【トレイ】
魔法薬の精製、錬金術の錬成において、事故はつきものである。
とりわけ未熟な一年生は毎年のようになんらかの事故を起こすから、教師陣はあらかじめ彼らに防衛魔法を施している。
咄嗟に魔法展開できない生徒たちの安全を守るため。
だからエースもデュースも、クルーウェルがかけた魔法障壁によって守られ、尻もちをついて煤で汚れる程度で済んだ。
でも、ヒカルは違う。
大釜から数歩離れた場所にいたとはいえ、衝撃をもろに食らった彼女は爆風によって吹き飛ばされ、硬い壁で頭を強打した。
慌てたクルーウェルがヒカルを保健室へ運んでいったが、その間、エースとデュースはもちろん、誰も口をきけないほど青ざめたものだ。
爆発の原因を確かめようと、あとからリドルに聞いた話だが、あの日の爆発は掻き混ぜるペースが早すぎる釜に材料となる粉を過剰に入れ、なおかつそこに金属が投入されたことによって引き起きた偶発的なものだった。
ペースが正しければ、粉を落とさなければ、ヘアピンがそこになければ、なにかひとつ条件が変われば起こるはずもない事故。
ご都合的なほど、運が悪い。
エースがヒカルを呼び止めさえしなければ、なにも起きやしなかったのに。
借りたままだったヘアピンを、嘘などつかず、素直に返してさえいれば。
ひと匙の嘘が巻き起こした、不運な事故。
だからこそ、エースはヒカルに対して罪悪感を抱いている。
真実を打ち明ける度胸はないけれど、彼女のためになにかしなくちゃと思う程度には。
「……納得できねー。」
飛行術の授業サボりがバレ、バルガスからスクワット300回の刑に処されながら、エースはぼやく。
「フラれた? そんなん、信じられるわけないっしょ。」
記憶を失ってから、ヒカルがトレイに惹かれ始めたのはすぐにわかった。
そして、それ以上にトレイが……。
「ふざけんなって。あんなん、絶対両想いだっつーの……!」