第5章 御都合ライアー!【トレイ】
記憶を取り戻したヒカルにも、実は知らない事実がある。
例えば、あの日、ヒカルが記憶を失った日の原因とか。
ヒカルはエースとデュースが錬金術で失敗した爆発に巻き込まれ、記憶を失った。
それが本人も周囲も知る経緯だが、もっと詳しく説明するのなら、原因はエースの不注意である。
あの日の錬金術は大釜に材料を入れ、一定の速度で掻き混ぜなければいけなかった。
バディのうち、ひとりは大釜を掻き混ぜ、もうひとりは速度がずれないようカウントをしながら材料を投入する。
エースは、後者の役割を担っていた。
いちに、いちに、とカウントを口ずさみながらタイミングを見て材料となる粉を入れている最中、珍しく授業中にヒカルがやってきた。
クルーウェルに届け物をし、すぐに去ろうとしたヒカルを呼び止めたのは、エースだ。
『ヒカル、今朝食堂で拾ったんだけど、このヘアピンお前んでしょ?』
スマイルマークがついた金属製のヘアピンは、雑誌のノベルティだったものを以前ケイトが彼女にプレゼントした。
『あれ、本当だ。いつ落としたんだろ。』
まったくの嘘だった。
ヘアピンは食堂で拾ったのではなく、オンボロ寮に遊びに行ったとき、前髪が邪魔で勝手に拝借したもの。
返しそびれていたため、拾ったと嘘をついた。
差し出したヘアピンを受け取ろうとヒカルが近寄ってきて、渡そうとしたその時。
『エース! カウントを止めるな! このペースでいいのか……!?』
『あ、わり――って、ペース早ぇよ! もっとゆっくり! って、やべ、粉入れるの忘れてた!!』
慌てるあまり、釜の近くに置いておいた粉入りの瓶を肘で突いてしまった。
蓋が外れたまま、ゆっくりと釜へ落下する瓶。
それを防ごうとして手を伸ばすが、間に合わなかった。
混ぜるペースが早すぎる大釜に材料の粉が全部落ちて、ついでにヒカルのヘアピンも落ちた。
やっちまった!と思った刹那、釜の中身がぐぐっと膨張する。
『やば…――ッ!』
膨張した大釜は、体勢を整える間もなく爆発した。