第5章 御都合ライアー!【トレイ】
トレイが好きだ。
騙されたとしても、利用したとしても、残念ながらこれだけは変えられなかった。
マジフトディスクを後頭部に受け、激痛と共に記憶を取り戻し、ついでに自分が処女のままだと思い出した時、ヒカルは絶望した。
捨てたくて堪らなかった処女が健在だったことと、なにより、トレイが恋人ではなかった現実に打ちのめされて。
ちょろい女だと笑ってほしい。
たった数日だけの恋人にヒカルは絆され、彼を好きになってしまっていた。
だからこそ、許せなかった。
めそめそ泣いて、騙された被害者になるのは絶対にごめんだと誓った。
被害者になりたくなかったから、加害者になった。
失恋した腹いせ、復讐だと言ってもいい。
そういう意味では、トレイに悪いことをしたと思わなくもない。
「わたしに用って、それだけ?」
「ん、ああ……まあ。えーっと、協力してやろうか?」
「ふふ……ッ」
尋ねてきたくせに少しだけ困った様子のエースに、思わず笑ってしまった。
協力だなんて、笑えるほど意味がない。
「残念、もう失恋済みだよ。」
「えッ!?」
想像もしていなかった答えだったのだろう、エースの目がまん丸に見開かれる。
その顔がおもしろくて、ヒカルはもう一度笑った。
「なぁに、その顔。すっごくおもしろい。」
「いや、だって、トレイ先輩にフラれたってこと? え、嘘だろ?」
「嘘つく必要ないでしょ。なんでそんなに驚くのか知らないけど、協力して借りでも作ろうと思った? 当てが外れてがっかりしたでしょ。」
「そういうんじゃ、ねーけど……。」
じゃあ、どういうつもりだったのだろう。
問い詰める気にもならなくて、トランプ柄のベッドシーツを引っ剥がす。
「なあ、フラれたってどんなふうに? 告ったの?」
「関係ないでしょ、そんなこと。人の恋路に首を突っ込むと、リドルくんのオフ・ウィズ・ユアヘッドが飛びますよ。」
これ以上詮索するなら授業サボりをリドルに報告するとほのめかせば、今度こそエースは口をつぐんだ。