第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ノリが軽く、お調子者のエースはパーソナルスペースが狭い。
良く言えばフレンドリー、悪く言えば馴れ馴れしい彼は、女性であるヒカルにも同様の態度を取る。
肩を組んだり、髪をぐしゃぐしゃに掻き回したり、頬をつついたり、スキンシップは濃いめ。
そこに男女間の下心を感じたことはないが、受けるヒカルとしては時折、鼓動が跳ねることがある。
マブのポジションとしてスポットライトが当たるエースではあるが、顔面偏差値はそこらの男性よりもだいぶ高め。
イケメンから過度なスキンシップを受ければ、普通の女性なら胸をときめかせてもおかしくはない。
だから、エースがこれほど近距離に迫ってくれば、胸がどきどきした。
……以前のヒカルならば。
ハートのスートが描かれる端整な顔を眺めながら、密かに落胆する。
(わたし、やっぱり……。)
もうきっと、エースに胸をときめかせることはない。
エースだけじゃなく、デュースだって、美男として名高いレオナやヴィルだって、もしかしたらリドルやエペルにさえも。
なぜなら、ヒカルの心はもう。
「ヒカル、トレイ先輩のことが好きっしょ?」
顔を覗き込むようにして尋ねてくるエースに、ヒカルはゆっくりひとつ瞬いて、そして返答をする。
「そうだね。」
誤魔化しもせず頷いたヒカルに、エースの方が驚いた顔をした。
「なに? その顔。」
「……いや、そんな素直に認めると思わなくて。」
察するに、エースはずっとこの質問をしたかったのだろう。
けれど人前で聞くわけにもいかず、わざわざヒカルが部屋の掃除に訪れる機会を窺っていた。
ヒカルがトレイを好きかどうか、それだけを確かめるために。