第2章 撮影ホステージ!【レオナ】
ヒカルを部屋に迎え入れたのは、意趣返しのつもりだった。
普段自分にだけよそよそしい態度を取っておいて、好意を持つ相手には尻尾を振る草食動物への復讐。
けれど、そんな些細な復讐心はヒカルが部屋の隅に布団を敷き、横になった時点で消え去った。
元より、女をいたぶる趣味はない。
(らしくねぇことをしちまったな。別にあいつが誰と仲良くしようが、俺には関係ねぇだろうが。)
関係ないはずなのに、どうしてあんなに腹が立ったのか。
あの驚いたヒカルの顔が脳裏から離れず、いつもならとっくに眠れる特技が発揮されずに目が冴える。
もぞり、と衣擦れの音がした。
どうやらヒカルも眠れないようで、先ほどから寝返りばかり繰り返している。
仲良くもない男の部屋で、人質同然の扱いで放置されているのだ。
安心して眠れる方がおかしい。
そしてレオナは、本来であればどこでもすぐに眠れるタイプ。
不便を強いているのはこちらなのだから、今夜くらいレオナが外へ出てやってもいいだろう。
そう思って起き上がりかけた瞬間、僅かな差でヒカルの方が先に布団から抜け出てきた。
レオナが寝ていると思っているのか、足音を殺しながら部屋のドアをそっと開けた。
(……どこへ行くつもりだ?)
慎重に部屋から出ていったヒカルを視線だけで追いかけて、今度こそレオナもベッドから下りる。
(まさか、ラギーのところに……?)
ありえなくもない。
先ほども、談話室でも、彼女はラギーの部屋に行きたがっていた。
夜這いをするほど大胆な女には見えなかった。
放っておいても問題はない。
押し掛けてきたヒカルをラギーがどうするかは本人に任せればいい。
人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られる。
そう考えてベッドに寝転がったものの、やはりヒカルの顔が頭から消えず、レオナは舌打ち混じりに起き上がり、ひっそり出て行った彼女のあとを追いかけた。