第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ユウが言ったとおり、大食堂ではエースとデュースが席を取って待っていた。
寮の掟で顔にスートを描かなくてはいけない二人は身支度に時間が掛かり、8割の確率でヒカルたちの方が先に着くというのに。
「おはよう、エース、デュース。どうしたの、今朝はずいぶん早いね?」
「おはよー。いや、もう、誰のせいかといえばお前のせいだから。」
「ヒカルがうちの寮にいる間、僕たちはオンボロ寮の管理を手伝わされていただろう? そのせいで早起きが習慣になってしまって……。」
「へぇ、いい習慣が身についてよかったね。……って、なにその顔。誰のせいで記憶がぶっ飛んだと思ってるの?」
どこか疲れが滲んでいた二人はヒカルの嫌味を受け、揃って視線を泳がせる。
「まあ、それはそれとして。にしてもさぁ、ずいぶん急じゃね? 記憶が戻ったからってさ、なにも昨日の夜に帰んなくたっていいじゃん。」
「そうだな。僕なんてヒカルが寮にいないと知ったのは朝になってからだったぞ。一声かけてくれてもよかったんじゃないか?」
さすがはナイトレイブンカレッジと言うべきか、嫌味には嫌味で返される。
デュースに関しては、単に拗ねているようにも思えるが。
「ごめんね。記憶が戻ったら、なんか無性にユウとグリムに会いたくなっちゃってさ。ホームシック? みたいな?」
少しばかり苦しい言い訳だったが、それを聞いたグリムがまんざらでもない顔でふんぞり返った。
「まったく、しょうがない子分なんだゾ! ヒカルとユウはオレ様がいないとなーんにもできなくて困るんだゾ!」
「すみませんね、親分。じゃあ、しょうがない子分のために、朝ご飯を持ってきてくれます?」
「ふな!? な、なんでオレ様が! 子分なんだからヒカルがオレ様の朝メシを持ってくるんだゾ! ツナ缶定食持ってこい!」
「ツナ缶定食なんかないでしょ。さて、今日のメニューはなにかな~。」
冗談と軽口を交えつつ、みんなで席を立つ。
ああ、ようやくヒカルの日常が戻ってきたのだ。