第5章 御都合ライアー!【トレイ】
目を覚ましたヒカルの視界に映ったのは、木製の染みだらけな天井。
ここは清潔な保健室でも、色彩豊かなハーツラビュル寮でもない。
ヒカルに与えられた本来の居場所、オンボロ寮の自室。
「……そうだ、戻ってきたんだった。」
昨夜、それまでハーツラビュル寮に部屋を借りていたヒカルは、トレイに真実を告げたその足でリドルの部屋へ向かった。
消灯時間前とはいえ夜遅くに悪いとは思ったけれど、もう一秒だってあの部屋にいられなかったのだ。
ナイトウェアに着替えていたリドルに記憶が戻った旨を伝え、夜のうちにオンボロ寮へ帰ってきた。
時間が遅いから送っていくと言って聞かないリドルに付き添われ、ユウとグリムが出迎えてくれた。
短いわりに、とてつもなく濃い日々だった。
けれどそれも、もう終わり。
今日からはまた、いつもの日常が待っている。
――コンコン。
「はーい、ユウ?」
部屋の扉がノックされて返事をすると、控えめに開いた隙間からユウとグリムが顔を覗かしている。
「ヒカル、起きてた? 体調は大丈夫?」
「今さっき起きたとこ~。具合は全然大丈夫だよ。」
「やい、子分2号! オレ様が誰だかわかるか? 忘れてねぇだろうな?」
どこか記憶をなくした初日を思わせる会話に苦笑し、立ち上がる。
ハーツラビュル寮とは違ってオンボロ寮の環境は不便で、当然食堂なんてものはない。
簡易キッチンはあるものの、食事はもっぱら学園の大食堂。
「準備ができたら食堂に行こう。エースとデュースもきっと待ってるよ。」
「ふなぁ……。オレ様、もう腹ぺこなんだゾ~!」
ハーツラビュルに滞在していた間もなるべくユウと食事を共にするようにしていたが、同じ寮から一緒に向かうのは久しぶりだ。
一緒に行かないという選択肢はない。
記憶が戻ったヒカルに好奇の目が向けられても、もしかしたら大食堂にトレイがいたとしても、日常からは逃げられないのだ。