第5章 御都合ライアー!【トレイ】
「頼む、説明させてくれ。」
説明をしたくても、言い訳をしたくても、聞いてくれないのでは意味がない。
懇願するように言い縋れば、冷めた視線が返ってくる。
「いいってば。なんとなく想像がつくの。リドルくんのことを好きなわたしが迷惑だったんだよね? キャーキャーうるさくしてたし、そう思われても仕方がなかったけど。」
「違う! お前がそういう意味でリドルを好きじゃないって、だいぶ前から知ってたよ。」
「そうなの? でも、どっちでもいいよ。もうわかるとは思うけど、別れたいって言った理由はこういうこと。」
ヒカルの記憶が戻れば、騙されていたことに怒って別れを告げられる可能性も考えていた。
だからそうならないように外堀を埋め、べたべたに甘やかして自分から離れていかないようにするつもりだった。
でもまさか、記憶を取り戻したヒカルが騙されているふりを続け、逆にトレイを利用してくるとは考えてもみなかったのだ。
「手段が悪かったのは認める。お前の気持ちを無視して、最低だった。……だが、別れたくない。」
「……なんで?」
トレイがヒカルに嘘をついた理由は、そのままトレイの想いに直結する。
これまでにだって何度も伝えてきた想いを、もう一度、改めて口にする。
「好きなんだ。ヒカルが好きだ。」
人生初の告白。
幾度となくヒカルには好きだと伝えたけれど、本当の意味での告白はこれが初めて。
恋を始めるのなら最初に伝えなければいけなかった告白は、しかし、すでに遅すぎた。
作り物の微笑みを崩さぬまま、ヒカルは告白の返事をする。
「嘘は、もういいよ。」
返事にすらならない答えを返し、ドアの前に置いておいたバッグを掴む。
「さよなら、トレイ。」
少なすぎる私物を持って、ヒカルは部屋を出て行った。
引き留める言葉がいくつも喉から溢れそうになり、口の中で消える。
今のトレイに、引き留める資格などありはしない。
そんな資格は、もともとトレイの手に握られていなかったけれど。