第5章 御都合ライアー!【トレイ】
エースは黙ってヒカルの誘いに乗ってくれた。
が、いつまでも黙っている男でもない。
「で? なんかあったの?」
「なんもないよ。」
腕を離し、隣り合って歩くエースの問いを躱す。
助けてくれたお礼に事情をべらべら喋るほど、ヒカルは馬鹿ではない。
エースはエースで、それくらいで引き下がるような馬鹿ではない。
「なんもないはずある? トレイ先輩と一緒にいたじゃん。町まで出掛けてたんじゃねーの? あ、デート?」
「まあね。スマホの契約を手伝ってもらうっていう、超健全なデート。」
「え、ついにスマホ買ったの?」
「うん。ピカピカの新品だよ。」
どうせ違うと誤魔化したところで、エースは納得しない。
だから冗談のように認めて、そのまま冗談だと思ってほしい。
「よかったじゃん。あとで連絡先教えて……って、それ、トレイ先輩と同じ機種じゃね?」
「そうなの。誰かと同じ機種の方が、使い方を教えてもらいやすいと思って。本当はエースかデュースと同じやつにしたかったんだけど、どれだかわからなくってさ。」
「あ、そ? 前もって言ってくれれば教えといたのに。」
自分は案外、嘘が上手いのだと感心した。
いや、トレイと付き合ってから上手くなったのだという方が正しい。
ついこの間までは、嘘がバレバレだとエースに笑われていたのに。
「てかさー、オンボロ寮の掃除もいい加減飽き飽きなんですけど。お前ら、よくあんなボロ屋敷で暮らしてるよね。いっそのこと、転寮しちゃえば?」
「自業自得でしょ。それに、そのボロ屋敷でしょっちゅうゲーム大会やお菓子パーティーしてるのはどこの誰だっけ?」
「たまに遊びに行くからいいんじゃん。ヒカルもうちの寮の居心地が良すぎて、帰りたくないっしょ?」
「まさか。早く帰りたいよ。」
話しているうちに、ハーツラビュルの寮に到着した。
短い間――トレイと付き合った日数だけお世話になったこの寮に。