第5章 御都合ライアー!【トレイ】
「……え? 今、なんて?」
「やめよう、ヒカル。無理はするもんじゃない。」
まじまじと見つめる中、トレイはヒカルの身体にバスローブを掛けた。
数秒前まで触れ合っていた身体はすっぽり隠れ、驚きのあまり何度も瞬く。
「わたし、無理なんてしてないけど。」
「そうじゃない。……いや、俺が悪いんだ。」
今さらやめてほしくなくて上体を起こし説得しようとしたら、眼鏡の奥で目を逸らされた。
そこでヒカルは、納得する。
ああ、無理をしているのは、わたしじゃなくてあなたなのね……と。
無理はするもんじゃない。
それはヒカルに向けた言葉ではなく、トレイが自分自身に向けた言葉だったのだろう。
無理をして好きでもない女を抱くもんじゃない、そう言いたかったのではないか。
結局トレイは、嘘であってもヒカルを抱きたくなんてなかったのだ。
思春期の男子ならば嫌がらないだろうと踏んだヒカルの誤り。
「ごめんな、俺が悪い。」
そうだね、あなたが悪いよ。
初めから、最後まで。
どうしてこんな茶番を始めたの。
責任が取れないのなら、最初から始めなければよかったのに。
ねえ、トレイ。
「……わたしのこと、好き?」
「ああ、好きだよ。」
ねえ、本当のことを言って。
「……本当に?」
「好きだよ。だからもっとちゃんと、大切しなくちゃいけないんだ。」
ねえ、ねえ、ねえ。
「……ヒカル、ごめんな。」
――嘘つき。