第5章 御都合ライアー!【トレイ】
にちにち、にちにち、粘つく水音がヒカルの耳に届く。
トレイの視線から逃れるために目を瞑っているものだから、自分の身体から生まれる淫猥な音に羞恥が煽られる。
素直に恥じ、相手に助けを求められたらどれほど楽だったことか。
しかし、ヒカルの初めての男は偽物の恋人。
それも、自分のことを経験豊富な女性だと信じているような。
「トレイ、もっと……。」
快感に悶えるのは、もう諦めた。
リラックスとは無縁な状態にあるし、そもそも処女が快楽に溺れるのは難易度が高い。
手っ取り早く終わらせてもらおうと先を促して、指が二本に増える。
「ヒカル、大丈夫か?」
「うん、気持ちいい。」
ベッドでの嘘はバレにくいもの、多少の演技はスパイスだと、バイト先の先輩が言っていた。
その真偽は定かではないけれど、経験のなさを指摘されることは終ぞなかった。
「……ね、もう挿れて?」
先に根を上げたのはヒカル。
恐らくは完全に解れてはいないだろうが、これ以上 経験豊富な女を演じられる自信がなくなったのだ。
「いや、もう少しだけ……。」
「お願い、我慢ができないの。」
余計なことばかりを考えているせいで濡れ方が今ひとつなヒカルを気遣ってくれるトレイを止めて、嘘偽りのない本音を告げる。
もう我慢ができない。
虚勢ばかりを張った無理のある設定に、我慢の限界だ。
急かされたトレイは躊躇する素振りを見せたが、ヒカルの必死さに負けて身を起こす。
下着をずらし、勃ち上がったモノが顔を出し、ヒカルの瞳が真ん丸に開く。
(う……、凶悪……!)
想像していたよりも遥かに太くて大きなソレに、押し込めていた恐怖心が滲み出る。
けれど今さら、後戻りなんてできない。
張り上がった切っ先を秘裂にあてがわれ、いよいよなのだと緊張が高まる。
そこで、不意に気がついた。
(電気を消してもらわなくちゃ!)
破瓜の出血がどれほどものかは不明だが、そこで気がつかれるわけにはいかない。
腰を掴んだトレイの腕に手を添えて、照明を消してもらえるように口を開く。
その時……。
「悪い、やっぱりやめよう。」
信じられない言葉を聞いた。