第5章 御都合ライアー!【トレイ】
寮以外で浴びるシャワーは快適だった。
入浴待ちをしている寮生の心配をしなくていいし、個室故にプライバシーが守られている。
ホテルの自慢であろうジャグジーは使わなかった。
さすがに浴槽に湯を溜めるほど、心の余裕はない。
備え付けのバスローブに袖を通して部屋へ戻ると、「それじゃ、わたしも」とヒカルがバスルームへ入っていく。
(……本当にする気か?)
これまで何度も彼女に迫った態度からわかるように、トレイはヒカルと一線を越えたい。
純粋にヒカルが欲しいからというのも当然あるが、既成事実を作っておきたいのが一番の理由。
そう遠くない未来でヒカルが記憶を取り戻しても、既成事実さえあれば上手く言いくるめられると信じていた。
年上で社会人である彼女の立場を最大限に利用した、下衆な方法。
しかし、今日までトレイが目的を達せなかったのは、タイミングが悪かったのと、ヒカルの反応があまりに初々しかったから。
初々しいといっても、他の誰かと比べられるほどトレイは女性に慣れていないが、経験の浅いトレイにもわかるほど、ヒカルの反応はぎこちなかった。
元より最低な行いをしていることは百も承知だけど、一線を目前にして二の足を踏んでしまうには十分なリアクションである。
そんなヒカルが、自ら誘ってくるなんて。
どんなに都合良く考えたとしても違和感しかない態度に彼女の真意を探ろうとするが、間もなくしてバスルームから出てきたヒカルの姿を目にしたら、頭の中が空っぽになる。
濡れた髪、体温が上昇して火照った肌、恥じらいを押し殺して伏し目がちな瞳。
私服を脱ぎ、バスローブに身を包んだヒカルは、男の情欲を掻き立てる条件をすべてクリアしていた。