第5章 御都合ライアー!【トレイ】
趣味が悪い外装のホテルは、中に入ってしまえば普通のホテルとさほど変わりがなかった。
無人のエントランスに設置された機械で部屋を選び、パネルを押せば部屋の鍵が転送されてくる。
エレベーターを使って移動し、部屋の扉へ鍵を差し込むと、付与されていた魔法が発動して部屋の中の空調や照明がすべて整う。
「なんか、手慣れてるね。」
「……言っただろ、お前と一緒に来たことがあるんだ。そのせいだよ。」
「あぁ、そういえばそうだった。」
嘘である。
本当は、ラブホテルになんて来たことがない。
ナイトレイブンカレッジに入学してからは男子校の寮生活で恋愛事に疎遠であり、それ以前はミドルスクールの生徒だった。
まだまだ子供の部類に入るミドルスクール生がラブホテルなど利用するはずがない。
それでもトレイが見栄とも言える嘘をついてしまったのは、ヒカルに見合う男だと思われたいから。
年上の彼女は自分よりも恋愛経験豊富で、元の世界でこのような施設にも足を運んでいただろう。
例え些細なことでも、名前も顔も知らない過去の恋人たちに劣っていると思われたくなかった。
幼稚な対抗心など知らないヒカルは物珍しそうに部屋を見回したあと、部屋の大半を占めるサイズのベッドへ腰を下ろした。
「シャワー、先に使っていいよ。」
ヒカルが視線で示す先には、ジャグジー付きのシャワールーム。
この場所で身を清めることは即ち、たったひとつの行為を意味している。
いや、身を清めずとも、この場所に足を運んだ時点でゴールは決まっている。
「……いいのか、ヒカル。」
その問いはもちろん、シャワールームを先に使うことに対してではない。
シャワーを浴びたあとに待ち受ける行為に対して。
「うん、いいよ。先に浴びてきて。」
トレイの真意が通じなかったヒカルは、僅かに緊張した笑みを浮かべながらシャワーを勧める。
記憶を失った彼女は知らないのだ。
嘘で固めた自分たちの間には、身体の関係がなかったことを。