第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ラブホテルであると知りながら、あえて質問するヒカルは意地が悪い。
でも、そのくらいの嫌がらせくらいしたって罰は当たらないだろう。
だってほら、ヒカルがリドルを好きだと勘違いしているはずのトレイは、今もまだ恋人のふりを続けたままだ。
「あそこは、その、ホテルだ。」
「へぇ~、賢者の島のホテルってああいう感じなんだね。今度学園にお客様がきたら、あそこにご案内しないと。」
「ちょ……、待った! それはダメだ!」
「どうして?」
優しいトレイ。
ヒカルが客人をラブホへ案内して恥を掻くくらい、見て見ぬふりをすればいいのに。
「あそこは、ただのホテルじゃなくて……ラブホなんだ。」
「……ラブホ。」
最初から知っていた真実を復唱し、驚いた表情を作る。
棒読みとまでは言わないが、決して上手いとも言えない演技。
よくよく観察すれば、ヒカルの演技は見破られるだろう。
けれど、ヒカルを見つめるトレイの瞳に疑いの色はなく、ただただこちらを心配するだけ。
「あんなところに男を案内するなよ? 連れ込まれて大変な目にでも遭ったら……。」
真剣味を帯びたトレイの表情に、喉の奥がぐっと締まって息苦しい。
彼の嘘は上手すぎて、時々真実と錯覚してしまう。
静かな深呼吸をして神妙に頷き、それから質問を重ねた。
「もしかして、わたしたちも行ったことがある?」
あるわけがない。
たが、真実はどうあれ、ヒカルたちは“一線を越えた恋人同士”である。
ならば、ラブホテルくらい行っていてもおかしくはない。
案の定、ヒカルの恋人は平然と嘘をついた。
「ああ、あるよ。」
トレイの恐ろしいところは、嘘をつくのに1ミリの躊躇いもないところ。
もう少し考えたり、戸惑ったりする間があってもいいのではないか。
おかげさまで、ヒカルの決心は固まった。
ヒカルは常識のある嘘つきだから、心の中に躊躇いが残っていたのだ。
けれど、もういい。
自分から握ったトレイの手にいっそう力を込め、にっこり笑った。
「じゃあ、今から行ってみたいな!」