第5章 御都合ライアー!【トレイ】
どこか気まずい沈黙が続く中、注文したケーキが運ばれてきた。
彩り映えがしないと思われていたベイクドチーズケーキの皿にはレッドカラントやミント、ブルーベリーソースが芸術的に散りばめられていて遊び心が窺える。
ケーキの先端部分をひと掬い、まずはソースを付けずに口へ運び、濃厚なチーズの味に舌鼓を打つ。
次はブルーベリーソースを纏わせて……と二口目のフォークを入れたところで、不意にトレイが沈黙を破る。
「リドルの……。」
「え?」
「リドルの、どういうところが好きなんだ?」
そう尋ねてきたトレイの視線は運ばれてきたタルトに向いていて、ヒカルの方を見ていなかった。
ヒカルはリドルが美味しそうに食べるケーキを真似てみたと説明しただけで、リドルが好きとは言っていない。
それでもトレイがこんな質問をしてきたのは、ヒカルがリドルのことを好きだと認識している証拠。
そんなの、おかしいじゃないか。
ヒカルとトレイは“付き合っている”はずなのに。
また少し、ヒカルの心が冷たくなった。
(嘘つきだね、トレイ。)
嘘つきには、嘘の応酬を。
そう思って恋人ごっこを利用しようと企んだヒカルだけど、なぜだかこの時は、素直に答えてみたくなった。
「うーん、そうだな……見た目とギャップかな?」
「見た目とギャップ?」
「そう。可愛い顔した優等生かと思えば、導火線が短くてヒステリックに怒るところとか。頼もしい寮長の顔と、ケーキにオイスターソースを混ぜちゃう時の顔、ギャップがありすぎて萌えない?」
エペルもだいたい同じ理由である。
昔から、可愛い系の男子とギャップ萌えがヒカルのストライクゾーン。
それで言うなら、トレイはまったくの守備範囲外だ。
優しい顔をした先輩風でありながら腹にイチモツ抱える男はギャップがあると言えなくもないけれど、可愛いとは言いがたい。
でも、こんな茶番を演じる人だとは思わなかったけれど。
優しい顔をした嘘つき。
それが、トレイに対して感じた一番のギャップだろう。
ざくり、とトレイがブラックタルトにフォークを入れる。
フォークに裂かれた赤黒い果実の汁がとろりと流れた。
血のような果汁の色がトレイによく似合った。