第5章 御都合ライアー!【トレイ】
豊富なケーキの写真をひとつひとつ眺め、色鮮やかな飾り付けに目を奪われながら注文を決める。
「じゃあ、わたしはベイクドチーズケーキにしようかな。」
「ベイクドチーズケーキ? いいのか、苺系のケーキじゃなくて。」
「え?」
言われてみれば、フルーツ自慢のお店でベイクドチーズケーキはいかがなものか。
単純に自分が好きなケーキを選んでしまったが、ここはフルーツたっぷりのケーキを選ぶべきだったと後悔する。
しかし、トレイが気にしていたのはそういう部分ではなかった。
「いつもうちのパーティーでは、苺系ばっかり食べていただろ? てっきり好きなのかと思っていたんだが……。」
「ああ、それは、その……。」
確かにヒカルはハーツラビュルのパーティーでは真っ赤な苺タルトやショートケーキを食べており、気を利かせた寮生たちがサーブしてくれるケーキも苺系ばかり。
だからトレイもヒカルが苺好きだと思っていたようだが、実際には少し違う。
その理由を口にしてもいいのか悩んだのは、恋人にとってはあまり気持ちのよい話ではないから。
でも、ヒカルたちは所詮、偽りの恋人。
ならば別にいいかと吹っ切れる。
「パーティーで苺のケーキを食べていたのは、リドルくんが同じケーキを食べていたからだよ。」
「リドルが……?」
「そう。あんまりにも美味しそうに食べるから、同じケーキを食べてみたくなっちゃうだけ。」
美味しそうに食べるから、というのは嘘。
単に、推しが好きなケーキを同じ空間で食べたかっただけ。
つやつやの苺が乗ったケーキにはこれでもかというほどクリームがデコレーションされていて、ヒカルには重くて甘かった。
重くて甘いリドルの味はヒカル好みではなかったけれど、推しへの愛がゆえに胃袋へ収めた。
いくら推しが好きでも、味の好みまでは一致しないのが辛いところだ。
ヒカルの答えに納得したのかしていないのか、トレイは口を真一文字に結んで黙り込んだ。
その様子をどこか冷めた気分で眺めながら、ヒカルは店員を呼んでタルトとチーズケーキを注文した。