第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ケータイの契約はヒカルが想像していたよりもスムーズに終わった。
懸念していた通信費は年間契約というものがあるらしく、スマホ本体と併せてヒカルが支払った。
これでとりあえず一年は自由にスマホを使うことができる。
一年経ったら契約の更新をしなくてはならないが、そのあたりは深く考えるのをやめる。
それよりも驚くべきは、スマホ代を含めた諸々の費用をトレイが支払おうとしたこと。
最新機種ではないが、それなりに新しいスマホは値が張り、年間の通信費も決して安くはない。
だというのにトレイが財布を取り出した時は、驚きを通り越して唖然とした。
「俺のワガママでスマホを持ってもらうんだから」などと言っていたが、もちろん払わせるわけがない。
年下、学生云々の前に、多額のお金を貢いではいけない。
それが恋人であっても――偽りの恋人であるなら尚更。
多少のバイトはしているのかもしれないが、学業が本分である彼が支払おうとしたお金は、恐らくかねてから貯めていたもの。
どんな思惑があるにせよ、それをヒカルに使ってしまおうと考えるトレイが少し心配になった。
「……意外と悪い女に引っ掛かりそう。」
「ん? なにか言ったか?」
「いやいや、なにも。」
心の内で思ったことがつい口に出てしまい、ヒカルは慌てて首を横に振る。
ヒカルたちがいるのは、町の外れにあるカフェ。
本業は青果店を経営しているこのカフェは、小さく狭いながらも美味しいとトレイが力説してくれた。
「どれにする? 俺はそうだな……、カシスとベリーのブラックタルトにするか。」
「ブラック……?」
「ブラックベリーを使ってるんだ。あと、カシスは別名ブラックカラントと言ってな。酸味はあるけど甘くて美味いぞ?」
さすがはケーキ屋の息子、いろいろと詳しい。
フルーツの別名なんて知らないし、なんならベリー類だってストロベリーとラズベリー、ブルーベリーくらいしか知らない。
豆知識に感心しつつ、メニューに視線を落とす。