第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ほどなくして到着したケータイショップ。
店内には多くのディスプレイが並んでいて、来店した客はそれらを操作したり、喋りかけたりしている。
「あれ、店員さんっぽい人がいないね。」
「ああ。ケータイショップはどこも大企業だからな。ディスプレイを使った接客が主流なんだよ。こんな孤島に出向くより、よほど効率的だろ?」
「なるほど、リモートワークってやつね。」
「欲しい端末を選べば、転送魔法を使って倉庫から送られてくるっていう仕組みだ。修理に出す時も同じで、ここから転送できる。」
「転送……。さすがは魔法ありきの世界。」
空いたディスプレイを見つけたトレイは常設されている椅子を引き、ヒカルに座るよう促す。
自身も隣の椅子へ腰を下ろすと、意図せずにトレイとヒカルの肩が軽く触れ合った。
ぴくり、とヒカルの身体が強張る。
それは本当に些細な変化で、無意識の行動だったのかもしない。
(ここ最近はだいぶ気を許してくれたと思ったが……、どうしたんだ?)
半ば強引なスキンシップの甲斐あって、近頃のヒカルはトレイに対する警戒心がなくなり、恋人らしい距離にも慣れつつあった。
今さらになって硬い反応をするヒカルに多少の違和感を抱く。
「ねえ、これはどうやって選べばいいの? メーカーとかよくわからないし、わたしは安い端末で十分なんだけど。」
「ん、ああ……、そうは言っても便利な機能はあった方が得だろ。これなんかどうだ? 俺と同じ機種だから、わからないことがあっても教えてやれる。」
「そう、かな? でも、教えてもらえるのはありがたいかも。じゃあ、これにするよ。」
ひとまずヒカルに抱いた違和感を学園外で緊張しているせいだと思うことにしたトレイは、自分と同じ機種のスマホを選ばせるミッションに成功する。
一度噂が立てば生徒たちは興味本位でヒカルの持ち物にも注目するだろうし、お揃いのスマホというアイテムがどういう役割を果たすのか想像するに容易い。
またひとつ、外堀を埋めた。