第5章 御都合ライアー!【トレイ】
恋人同士なら、週末に町へ出掛けてデートをするくらい普通のことだ。
だが、何度も言うようにヒカルとトレイは普通の恋人ではない。
多少のリスクを負って町へ来たのは、噂を流す以外にも目的がある。
「ケータイショップ、遠いの? わたし、用事があるお店にしか行かないから、詳しくないんだよね。」
「そうだろうな。そんなに遠くないよ、次の角を曲がったところだ。契約が済んだらカフェにでも行こう。美味しいケーキを出す店を知ってるんだ。」
「……うん。」
ヒカルの視線が「そんなに目立つ場所へ行って本当に大丈夫?」と問い掛けてくるが、トレイは譲らない。
なんといっても、初デートである。
記憶がないヒカルには何度もデートへ出掛けたと話しているが、実際には今日が初めてのデート。
そして、一番の目的でもある携帯電話の契約は最重要事項だ。
ヒカルはツイステッドワンダーランドへ来てから一度もケータイの類いを所持していないけれど、元の世界では絶対必需品として持っていたらしい。
知り合いがゼロになってしまったとはいえ、ケータイがない生活はさぞかし不便だっただろう。
異世界のスマートフォンがどのくらいのスペックを誇っていたかは知らないが、魔法が存在するこちらの世界が負けるとは思えない。
不便に不便を重ねた生活にも疲れているはずで、そこへ最新ツールを与えれば、ヒカルの依存は強くなる。
異世界人であるヒカルには戸籍がない。
この世界で生きていく決断をし、しかるべき申請をすれば取得できるものの、まだ彼女にはその覚悟がないようだ。
だとすれば、ヒカルは誰かに頼るしかなく、現状の相手はクロウリー。
けれどその相手を徐々に自分に変えていけば、彼女はトレイから離れられなくなる。
依存して、依存して、トレイがいなくちゃこの世界で生きられない。
そう思ってもらうために、トレイはヒカルを甘やかす。
スマートフォンの契約は、そのための一歩である。