第5章 御都合ライアー!【トレイ】
嵐は、突然にして起きる。
思えば、ヒカルやユウがこのツイステッドワンダーランドに現れたのだって突然だったのだ。
地道なアピールを続けるも、まったく進展がないまま冬を迎えたホリデー明け。
多くの生徒がホリデー気分から抜け出せていない頃に、事件は起きた。
当時、自習中だったトレイはドン!と鳴り響いた大きな音に驚き、教室の窓から階下を眺めた。
どうやら音の出どころは実験室のようで、もくもく黒い煙が立ち上がっている。
一般の学校であれば火災報知器が起動する大事件だろうが、ここはナイトレイブンカレッジ。
この程度の爆発は珍しくもない。
確か、この時限に実験室を使うのは一年だったか……なんて悠長に考えていられたのはここまでで、渡り廊下を大股で歩くクルーウェルの姿を見た瞬間、トレイは立ち上がった。
彼の腕の中には、意識を失っているであろうヒカルが抱えられていたのだ。
適当な言い訳をつけて教室を抜け出すと、滑るような勢いで保健室へ向かう。
あの状況であれば、クルーウェルが目指しているのはここだと確信していたからだ。
予想通り、保健室の前で鉢合わせになったクルーウェルに偶然を装って声を掛けた。
『クルーウェル先生! どうかしたんですか?』
『ああ、クローバーか。仔犬たちの不始末にヒカルを巻き込んでしまった。くそ、俺の監督ミスだな。』
クルーウェルが素直に事情を話したのは、声を掛けてきたのがトレイだったから。
他の生徒であれば、授業中である時間に教室外をうろついていることを訝しみ、指導されていただろう。
『養護教諭は不在、か。クローバー、悪いが俺が戻るまでヒカルに付き添っていてくれ。目を覚ました時、ひとりで保健室で寝ていたら混乱するだろう。』
願ってもない申し出にすぐさま頷き、クルーウェルが出ていった。
事故から助け出せず、現場にもいられなかったことを悔しく思いながら、ヒカルの寝顔を見守る。
まさか、彼女の身にとんでもない現象が起きているだなんて夢にも思わず。