第5章 御都合ライアー!【トレイ】
自分の気持ちを整理するでもなく、自然とそう思っていた。
俺にしたらいい。
そう考えた瞬間、己の気持ちを自覚する。
一度自覚をしてしまえば、あとは簡単だ。
これまで不可解だと思っていたものが、あっという間にわかってしまうのだから。
完成間際だったパズルのピースを埋めるように、かちりかちりとトレイの中で想いが出来上がる。
いつからとか、そんなものはどうだっていい。
もうこれ以上、ヒカルが誰かを熱っぽく見つめるのが許せないだけ。
未だトレイの存在に気がつかないヒカルの横顔を見つめ、胸ポケットに差したマジカルペンをするりと抜く。
“ドゥードゥル・スート”
この魔法を彼女に使うのは、これで二度目。
一度目は、ヒカルの弱みを知るために。
そして二度目は……。
『……ヒカル。』
ユニーク魔法にかかったヒカルに声を掛けると、こちらに気づいた彼女は少し驚き、それから嬉しそうに微笑んだ。
『トレイくん!』
跳ねるように小走りで駆け寄ってきたヒカルは、花が咲くほどの笑みを溢れさせながら、そのままトレイに抱きついた。
日頃の彼女からはありえなさすぎる行動に身を硬直させれば、ハッとしたヒカルが慌てて距離を取る。
『ごめん、つい……嬉しくて。』
そう言って後ろ手に指を組むヒカルは、やはりトレイが知らないヒカルだった。
ユニーク魔法をヒカルに使うのは、二度目。
人の心を塗り替えたのも、これで二度目。
一度目は、ヒカルが信頼する人間になった。
そして二度目は、ヒカルが恋する人間に、恋人になった。
とても稚拙で、残酷な嘘だった。
現実にはこんなふうに甘えてきたことも、喜んでくれたこともない。
なぜならトレイは、ヒカルの恋人ではないから。
けれどその稚拙で残酷な嘘は、どうしようもなく甘くて蕩ける味がした。