第5章 御都合ライアー!【トレイ】
瞠目したトレイの隙をつき、これ幸いとラギーが退散した。
盗撮の相手がリドルからエペルに変わっただけで、ラギーの悪事は変わらなかったけれど、深追いする気にはならなかった。
それよりも、ラギーが口にした説が信じられなくて。
いつまでもここにいるわけにはいかず、目的もなく廊下を歩くと、先ほど立ち去ったと思われたヒカルがぼんやりと立ち止まっていた。
ヒカルの顔はまっすぐグラウンドに向いていて、視線は熱い。
熱っぽいその視線を、トレイは知っていた。
いつも彼女が、リドルに向ける視線。
だけどここには、リドルがいない。
グラウンドで声を張り上げているのは、箒に跨がりディスクを追うマジフト部員――エペルだった。
(……嘘だろ?)
ヒカルはリドルが好きなはずだった。
あからさまなアプローチをしなくても、女を武器に媚を売らなくても、リドルだけが好きなはずだった。
ヒカルの視線はいつでもリドルを追っていたから。
ただ、トレイが知るヒカルの“いつでも”は、実際にはほんの一部分でしかなかったということ。
ヒカルにはヒカルの世界があって、好きな人が複数いる。
ラギーは知っていて、自分は知らなかった。
たったそれだけのこと。
それだけのことが、言葉にならないほど苛立たしい。
胃のあたりがムカムカして、今にも叫び出しそうだ。
リドルが、エペルが、ヒカルのなにを知っているのだろう。
きっと彼らは、ヒカルが生徒をジャガイモ扱いしているとは知らない。
陰で頑張るヒカルの手が、荒れているとも知らない。
あの日、なにかに悩んで涙したことだって知るはずもない。
リドルを好きだと思ったから、一線を引いていられた。
でも、違うのなら、リドルじゃなくてもいいのなら、他の誰かも好きだというのなら、話は違う。
(それなら、俺でもいいじゃないか――!)