第5章 御都合ライアー!【トレイ】
トレイの本気度合いを察知したのか、焦ったラギーが腕を掴んで引き留めてくる。
『だいたい、なんでトレイくんがそこまで介入してくるんッスか! あんた、リドルくんと違って規律絶対マンじゃなかったはずでしょ!?』
確かにトレイは、リドルのように絶対的な正義を持ち合わせているわけではない。
避けられるのなら面倒事には首を突っ込みたくないし、実際この件にヒカルが絡んでいなければ、苦言を呈するだけで済ませただろう。
では、いったいなぜ、ヒカルが絡むと見過ごせないのか。
『……うちの寮長の写真が密売されていたんだ。口喧しくもなるだろ?』
己の矛盾を誤魔化すためにそれらしい言い訳を口にすると、ぎゅっと眉根を寄せたラギーが「は?」と呟く。
『なに言ってるんスか。ヒカルくんに渡したのはリドルくんの写真じゃなくて、うちの部員――エペルくんの写真ッスよ。』
『………は?』
あまりにも想定外の発言を受け、トレイもラギーと同じ反応を返してしまう。
これがもし嘘ならば、なんて杜撰な嘘であることか。
ヒカルはリドルが好きで、ずっと好きで、他の生徒なんか相手にもしていないはずなのに。
『あ~……。トレイくん、さては知らないんスね?』
『……なにがだ。』
『トレイくんから見たら、ヒカルくんはリドルくんに夢中って感じだろうけど、実は違うんスよ。』
そんなはずはない。
彼女はいつもリドルを視線で追い、トレイを含めた生徒のことをジャガイモ扱いしてきたのだから。
『いや、リドルくんのことも好きなんスよ? ただ、あの人、リドルくんだけが好きなんじゃなくて、可愛い美少年が好きなんスよ。なんだっけな……えーっと、そうだ、“推し”らしいッスよ。』
推し。
同学年のイデアがよく口にしている言葉。
その意味は、あまりよくわからない。
わからないが、ラギーの言葉を信じるのなら、ヒカルにはリドル以外にも好きな人がいるということ。