第5章 御都合ライアー!【トレイ】
波乱のマジフト大会が幕を下ろし、トレイの足が完治した。
しかし、あの日“すぐに会える”と思っていたヒカルには会えないままである。
正確に言えば、会えはした。
校舎内やグラウンドの片隅、図書室、食堂でも彼女の姿は見かけた。
そのたびに話し掛けようとしたのだが、トレイの姿を認めた途端、ヒカルの方が逃げ出してしまう。
逃げるといっても、以前のように走り去るわけではない。
近くにいた生徒を捕まえて急に話し込んだり、仕事を思い出したと呟いて踵を返したり。
視線が合えばぎこちなく微笑んでくれるし、挨拶もしてくれる。
要は、どことなく避けられているのだ。
リドルは気がつかなかったようだが、勘の良いケイトは状況を察し、「トレイくん、なにかしちゃったの~?」などと探りを入れてくる。
そんなの、こっちが聞きたい。
理由はもちろん心当たりがあるけれど、ここまで避けられるほど深刻な内容ではなかった気がする。
どうにかヒカルと話がしたくて、授業中も移動中も彼女ばかりを探し、ようやく隙を見つけたのは放課後。
外廊下の真ん中で、ラギーと話し込むヒカルを発見した。
運動着姿のラギーは部活中らしく、箒を片手にヒカルと身を寄せ合っていた。
(……距離が近くないか?)
男子生徒同士ならばともかく、恋人でもない男と女の距離としては適切と言えなかった。
しかも、どちらかいえばヒカルの方がぐいぐいラギーに身を寄せて、それがまたなんとも言えない苛立ちを生む。
女王の厳格な精神に基づくハーツラビュルの副寮長として、ここは注意をしてもいい場面だろう。
そう思って一歩近づくと、二人の手元にあったものに気がついた。
(あれは、写真か?)
ラギーは数枚の写真をヒカルに見せていた。
頬を赤くしたヒカルは幾度か頷き、そして、あろうことかマドルを彼に手渡した。
ヒカルとラギーは親密そうに身を寄せていたのではなく、単に写真の密売という悪だくみをしていたのだった。