第5章 御都合ライアー!【トレイ】
トレイとヒカルは、仲が悪いわけではない。
かといって良いわけでもなく、顔を合わせれば挨拶を交わし、時折世間話をする程度。
顔見知り以上、友人以下。
まさしく、そんな関係だ。
けれども、ヒカルを異なる目で観察していたトレイには、彼女の変化がわかってしまう。
例えば、ここのところ元気がなくなっていることとか。
マジフト大会を目前に控え、用務員であるヒカルの仕事が増えているせいなのか。
ほかにも理由があるのかもしれないが、トレイはあえて声を掛けたりはしなかった。
無意識のうちに、ジャガイモ扱いされた件を根に持っていたのかもしれない。
(俺が助けなくても、誰かが助けてくれるだろ?)
なにせ、彼女の周りには数多くのジャガイモたちが転がっているのだから。
拗ねているのか、怒っているのか、自分でもよくわからない。
そんなもやついた感情を抱えていたからなのだろう、各寮の選手を決める大事な時期に、不注意で怪我をしてしまった。
階段で足を踏み外したリドルを庇ったまではよかったけれど、無様に転げ落ち、足を負傷してしまったのだ。
寮長であり、優秀なマジフト選手であるリドルが怪我をしなかったのは幸いであったが、全治数週間と診断されたトレイは、選手選抜どころかしばらくベッドとお友達。
まったく、情けない話である。
リドルはもちろんとして、ケイト、エースとデュース、さらにはユウまでもが心配して見舞いにやってくる。
大会には出場できないけれど、安静にしていれば回復する怪我だ。
大げさな彼らに苦笑しつつ、ひとりきりの時間を持て余していた昼下がり、小さく、躊躇いがちに部屋の扉がノックされた。
『……どうぞ?』
授業中であるはずの時間に誰だ?と訝しみながら返事をすれば、ゆっくり開いた扉の向こうには、どことなく暗い顔をしたヒカルが立っていた。