第5章 御都合ライアー!【トレイ】
要注意人物としてヒカルを気にしていたら、彼女が真面目で働き者で、そして要領良い女性だと気がついた。
魔法で物事を解決できないヒカルは、学園中を駆けずり回って仕事をする。
女性には向かない力仕事も、汚れた仕事も、誰にも評価されないような仕事も、人知れず地道に行う。
見かねたトレイは何度かヒカルを手助けしたが、彼女が頼るのはトレイだけではなかった。
己が女であると正しく理解しているヒカルは、あろうことか、女を武器にする。
通りすがりの生徒に上目遣いで仕事を頼み、引き受けてくれた生徒を過剰に褒める。
頼りになるね、さすが男の子だね、魔法使いってすごい。
褒めちぎられた生徒は、鼻の下を伸ばしながら気を良くして引き受ける。
『ああいうの、よくないんじゃないか?』
『ああいうのって、どういうの?』
『男の下心を利用するようなやり方さ。勘違いをされたらどうする?』
林檎の木の世話を手伝いながらやんわりと注意をしたら、ヒカルは悪びれもせずに肩を竦めた。
『そしたら、勘違いした子のいい勉強になるんじゃない?』
あまりの言いように絶句すると、ヒカルは事もなげに笑って、ほつれた髪を荒れた手で耳に掛けた。
『甘い言葉を吐いて面倒事を押しつけてくるような女には引っ掛からない方がいいし、本気にもならない方がいい。外見やお金が目当てで寄ってくる女の子なんて、星の数ほどいるもんね。』
ヒカルは一応、声を掛ける生徒は選んでいると言った。
純粋そうな生徒に媚を売らず、思春期真っ盛りの異性に頼られたい生徒を選ぶのだと。
『でもね、ここで働くようになってから、告白とかされたことなんてないよ。みんなわかってるんだよ。男子校だから“わたし”が特別に見えるだけで、外の世界にはもっとキラキラした子がいるってさ。』
ジャガイモの中にひとつだけ林檎が混じっているから、目立って良いふうに見えるだけ。
『ハハ……、俺たちはジャガイモか?』
『例えだから、例え。本当にジャガイモだと思ってるわけじゃないよ。』
それでも、彼女にとってはリドル以外の人間はジャガイモなのだ。
もちろん、今ここにいるトレイも。