第5章 御都合ライアー!【トレイ】
面倒見がよく、真面目で良い人。
周囲が自分に抱いている印象を、トレイはよく知っていた。
ただ、他人が抱く印象は必ずしも当たっているとは限らず、トレイ自身、己が真面目で良い人だとは思っていない。
人当たりが良い顔をして、実はずる賢い男。
そう言われた方が、何倍も納得できるだろう。
事実として、トレイは狡い人間だ。
ヒカルと外出の約束を取り付け、名残惜しさを感じつつも自室に戻ったトレイは、ルームメイトに気づかれないようひっそりとベッドに入る。
事故に巻き込まれたせいか、今日のヒカルはいつもより落ち着きがなく、挙動不審だった。
その様子が逆に可愛くて、そのまま押し倒してやろうかとも思ったけれど、負傷した女性を組み敷くのはトレイのルールに違反する。
せっかく恋人の距離に慣らしてきたのに、怯えさせては元も子もない。
むずむずと下半身に宿る熱を逃しながら、彼女と出会った日のことを思い出す。
ヒカルの第一印象は、あまり良いものではなかった。
なぜなら彼女は、トレイが苦手とするタイプの女性だったのだ。
『トレイ、噂には聞いていただろうが、彼女が用務員になったヒカルだよ。これからうちの寮にも出入りすることになるけど、気にしてあげておくれ。』
そうリドルに紹介されたヒカルの視線は、リドルに釘付けだった。
瞬時に、「ああ、これは面倒だ」と理解した。
リドルの傍にいると、たまにこういう女性が現れる。
家柄も良く、才能もあって、両親は名の知れた医者。
ついでに容姿も整っているとあれば、リドルに懸想する女性は多い。
純粋な恋心であればまだいいが、トレイが嫌うタイプの女性は、いわゆる玉の輿を狙っているのだ。
彼女の視線もまた、純粋な恋心とは思えず、虎視眈々とリドルをつけ狙う狩人の目。
ずいぶんと厄介な人物が用務員になってしまった。
後先考えないクロウリーに怒りさえ覚える。
この時のトレイは、用務員に就任してしまった危険人物から、いかにリドルを守るか……そんなことしか考えていなかった。