第5章 御都合ライアー!【トレイ】
「えっと……、さすがにそこまで迷惑はかけられないよ。スマホがなくたって仕事はできるし、大丈夫!」
別れたあとのことを想像すると、トレイの厚意は受けられない。
そう思って提案を断ってみるものの、ヒカルの髪を一房指に絡めたトレイは、首を横に振って譲らなかった。
「迷惑だなんて言わないでくれ。……心配なんだよ。俺のワガママだと思ってくれてもかまわない。だから、スマホを買いに行こう。」
「……。」
うっかり、トレイはヒカルのことをとても愛してくれていると錯覚してしまった。
「次の休み、一緒にケータイショップへ行ってくれるな……?」
「う、うん。」
つい頷いてしまってから、ハッと我に返る。
違う、違うぞ。
この男はなにか良からぬことを企て、ヒカルの事故を利用した最低な男なのだ。
「あ、いや、違くて――」
「よかった! 本当は毎日心配だったんだ。ヒカルがどこでなにをしているのか考えるだけで、授業も頭に入らなくてな……。」
「そ、それは心配しすぎじゃ……?」
「それくらい、お前のことが好きなんだ。」
開いた口が塞がらないとは、このことを言うのだろう。
よくぞまあ、思ってもいない嘘がペラペラと出てくるものだ。
これまで嘘つき&口が上手いといえばエースやアズールを思い浮かべていたけれど、見解を改めなければなるまい。
トレイがなにを思ってヒカルに嘘をつき、スマホの契約を推し進めようとしているのかは定かではないが、とりあえず、彼の策略に乗ってみようと思った。
別れたあと、契約のアレコレで苦労するのはヒカルではない。
ならば、それまでの間、トレイの胸の内を探ってやろうじゃないか。