第5章 御都合ライアー!【トレイ】
――ガツンッ!!
ヒカルの視界に、星が散る。
遅れて脳みそを揺さぶる衝撃と、頭をかち割るほどの痛みが襲う。
「えッ!? ちょ、おい、大丈夫かよ!」
ついさっきまで意地悪く笑っていたはずのエースが血相を変え、うずくまるヒカルを支える。
傍らにカランと音を立てて落ちてきたのは、薄くて硬い円盤状の物体。
「ご、ごめんなさい!怪我ねぇが!? ……じゃなくて、ありません、か!?」
「エペル! これ、お前の仕業かよ!」
ヒカルたちに危険を知らせて叫んだのも、大慌てで駆けつけてきたのも、ヒカルが目をハートにして観察していたエペルである。
ヒカルの後頭部に直撃したそれは、マジフト部で使われる専用のディスク。
「そこにいるのはヒカルサン……? もしかして、ディスクが当たっちゃったの?」
「もしかしなくてもそうだっつーの。おい、ヒカル、大丈夫か?」
美男子二人に心配され、しかもひとりはヒカルが大好きなエペルだというのに、当の本人はそれどころではなかった。
自身を襲った不運な事故による痛みに苦しんでいた……わけではなく、ご都合良く起きた事故によってもたらされた“とある現象”に頭が追いつかなくなっていたのだ。
ヒカルの頭に押し寄せてきたのは、大量の記憶。
激動のマジフト大会、大惨事の期末テスト、波乱万丈なホリデー。
どれもこれも、ヒカルが失くしていた宝物。
時間にして数分。
けれど、とてつもなく長い時間に感じられ、大きく息を吐いたヒカルはゆっくり顔を上げた。
「ヒカルサン……、ごめんなさい。すぐに保健室に行こう?」
「……エペルくん。」
可愛い可愛いヒカルの推し。
エペルに心配され、保健室へ誘われるなんて、とんだラッキーイベント。
でも、今のヒカルにはイベントにあやかる余裕がない。
「……ありがとう。エペルくんはやっぱり、マイスイートエンジェルだね!」
「す、すいーとえんじぇる……?」
ぽかんとするエペルの前でヒカルは颯爽と立ち上がり、そして言い放つ。
「わたし、用事を思い出した! その荷物よろしく!!」
「え、は……!?」
わけもわからず目を白黒させるエースを放置して、ヒカルはこの場から走り去った。