第5章 御都合ライアー!【トレイ】
エースに質問を投げ掛けられたヒカルは、しばらくの間フリーズした。
そのリアクションはまさに、「秘密がバレてしまった!」と語っているようなもので、完全にヒカルのミスと言わざるを得ない。
抱えていた荷物がぽろりと床に落ち、ようやく我に返った頃にはもう遅い。
「……なにを言っているのかな、エースくん。あはは、びっくりして荷物落としちゃったじゃん。」
「反応がモロバレすぎ。ポーカーフェイスくらい覚えないと、うちの学校じゃやってけねーよ?」
荷物を拾ってくれたエースから失笑を食らい、ヒカルの心臓は早鐘を打った。
(ど、どうしよう。わたしのせいで、秘密がバレちゃう……!)
それも、よりにもよってハーツラビュルの寮生に。
あの優秀なトレイの評価に傷をつけるかもしれない、と思ったら、焦りと恐怖で冷や汗が流れた。
「……そんな顔しなくても、別に言いふらそうとは思ってねぇけど。」
強張った表情のヒカルを見て、今度は苦笑された。
だからといって安心はできないし、認めるわけにもいかないけれど。
「言いふらすもなにも、事実じゃないから。エースの勘違いでしょ?」
否定さえすれば、事実を認めなければ、推測は推測のまま。
いつまでも白を切り続けるヒカルに、苦笑を引っ込めたエースが今度は意地悪く笑う。
「なにお前、いっちょ前にオレを警戒とかしてるわけ? ウケるんですけど。そんなポーカーフェイスひとつ作れねぇくせに。」
にやにやと笑うその顔は、どう獲物を追い詰めてやろうかと思案する獣の顔だ。
ああ、こんなことになるのなら、エースに雑用の手伝いなんか頼むんじゃなかった。
「しらばっくれてもムダだかんね? だって、お前…――」
これ以上は、エースの指摘を受けるのが怖い。
逃げたい、と思った瞬間、奇しくもその願いは叶えられた。
「――危ないッ!!」
そう叫び声を上げ、ご都合良くヒカルを救ったのは、トレイでも、ユウでもグリムでもなく、ましてや学園の生徒……人間ですらなかった。