第5章 御都合ライアー!【トレイ】
「あ、あーーッ! あそこにいるのは、マイスイートエンジェルのエペルくん!」
体力自慢のマジフト部員の中で、小柄なエペルは良くも悪くもよく目立つ。
そういえば、この女性用務員はリドルのほかにも、同級生のエペル・フェルミエに好意を寄せていたのだとエースは思い出した。
「マイスイートエンジェルって……。ああ見えてアイツ、男気があるっつーか、プライドが高いっつーか。可愛いとか言われるの嫌がんよ。」
「わかってる! だからエペルくんの前では自重してるでしょ? あ、ちょっと写真撮りたい。……って、わたしスマホ持ってないんだった! エース、撮って撮って!」
「……盗撮なんすけど。」
温度差のある熱量に若干引きつつも、すぐ傍にあったベンチに荷物を置き、素直にスマホをエペルに向けて悪事に加担してあげた。
短い付き合いながらも、彼女には逆らわない方がいいと学習済みなのである。
「んで、撮った写真はどーしたらいいの?」
「後日プリントアウトして、わたしにください。」
「めんどくさ……。ってか、ヒカルってエペルとか寮長とか、ああいう可愛い系が好きなわけ?」
それはわりと、今さらな質問だった。
これまでもエースはヒカルの特殊な性癖に付き合わされてきたし、盗撮した写真をプリントアウトしてあげるのも初めてじゃない。
「うん、好き好き! 特に、可愛いことを気にしてるような子がめっちゃ好き! これからが成長期なんだって信じてる姿なんか、性癖に刺さりすぎてハァハァする!」
「そこまで聞いてねぇし、普通に引くわ。」
適切なツッコミを交えつつ、もうひとつ、聞きたかった質問を口にする。
むしろ、本当に聞いてみたかった質問はこちらである。
「んじゃさ、トレイ先輩のことはなんで好きなわけ?」