第5章 御都合ライアー!【トレイ】
用務員であるヒカルには、授業中も放課後もさほど変わりはない。
強いて言うなら、授業中はなるべく邪魔にならないように動き、なおかつ生徒の助けを借りられないところだろうか。
魔法が使えず、女性の身であるヒカルは生徒の力をよく借りる。
幸いにして、ここは男ばかりの学園なので、ヒカルにいい顔をしたい思春期男子は山ほどいた。
だけど誰でもいいわけじゃない。
アズールのように見返りを求められても困るし、気分屋フロイドに頼れば仕事が倍になって戻ってくる可能性もあるし、マレウスのように力加減を知らなくてもダメ。
かといって自分に好意を寄せてくる生徒を選べば、二人きりの空間が怖くなる。
そのあたりはよく見極めていて、今回ヒカルの犠牲になったのはエースである。
根は良い子だが、面倒事を厭うタイプのエースがヒカルの手伝いを引き受けるのは非常に珍しい。
しかし、彼にはヒカルの記憶を吹っ飛ばしたという弱味があり、文句を言いながらも資材の荷運びを手伝ってくれる。
「てかさー、こんなの魔法でパパッと運んじゃえばよくね? ちまちま歩いて運ぶのダルいんですけど。」
「うんうん、そうだね。だから早くパパッと運べる魔法を修得してね。」
「だからさ、オレじゃなくて、そのへんの二、三年生に頼めって。ほら、うちの寮長なんか一発よ?」
確かにリドルなら、資材入りの重たい箱をえっちらおっちら運ぶのではなく、「貸してごらん」と言って浮遊魔法のひとつでもかけてくれるだろう。
「うあ、そのシチュエーション萌えるわ~。近くにいたのがリドルくんなら、絶対お願いしてたよ、わたし。」
「お前、あいかわらずうちの寮長好きね……。んじゃさ、あの辺にいる先輩とかに声掛けたら? 一年のオレより、魔法も簡単にかけてくれるっしょ。」
「ダメダメ。部活の邪魔はできないもん。」
「もしもーし? 一応言っとくけど、オレもこれから部活なんですけど?」
それはそれ、これはこれ。
エースのツッコミを華麗に無視し、荷物を抱え直しながら外廊下を歩いた。
近くのグラウンドではマジフト部が練習をしていて、ひときわ輝く姫林檎の姿を見つけた。