第5章 御都合ライアー!【トレイ】
存在感を増す欲望の塊に直面するのが気まずくて、腰を浮かしたり、位置を変えたりしてもぞもぞ動く。
しかし、動き回るといっても所詮はトレイの膝の上。
主張する雄から逃げることもできず、落ち着きのなさをトレイに伝えてしまうだけ。
「どうした?」
「ん、えっと、その……。」
ソレが硬くなってアレなんです、などと説明できるはずもなく、トレイと目を合わせられなくて視線を散らす。
「あぁ、もしかしてコレか? ごめんな、俺も男だから我慢ができない。」
ヒカルが言わずとも、身体の一部の変化には本人が一番気づいている。
「わ、わたし……、どうしたら……?」
こういう時の対処法は、知識としては一応ある。
手で擦るなり、口で慰めるなり、はたまた、もっと手っ取り早い解決法も。
もしトレイが「してくれ」と頼んでくるならば、経験はなくても実践する気持ちはある。
腰を浮かした不格好な体勢で言うのもなんだが、トレイが知る“以前の自分”に負けるのは嫌だった。
ヒカルの覚悟をよそに、トレイは困ったような笑みを浮かべ、胸をいじくり回していた手を服の中からそっと抜く。
「ありがとう、気持ちは嬉しいよ。でも、そろそろ時間切れみたいだ。」
「え……。」
リーン、ゴーン、と鐘が鳴る。
昼休みが終わる10分前に鳴る鐘の音は、生徒たちにもうすぐ授業が始まるのだと知らせる合図。
予鈴に気を取られている間に作業着のボタンをきっちり直され、頬に軽いキスを受ける。
「名残惜しいが、続きはまた今度……。」
「うん……。」
名残惜しいのは、たぶん、トレイだけじゃない。
彼の膝から降りたヒカルもまた、寂しさにも似た感情を覚えている。
初めの頃はキスでさえ戸惑っていたのに、今では物足りなさを感じるなんて。
「午後の授業、がんばってね。」
「ありがとう。ヒカルも仕事、頑張れよ。」
少しだけ、本当に少しだけ、この世界にトリップしてきた時に、用務員ではなく生徒を選べばよかったと思った。
そうしたら、トレイと一緒に授業を受ける機会に恵まれたのに。