第5章 御都合ライアー!【トレイ】
脇腹を這うトレイの手のひらは、想像していたよりも少し硬い。
ホイッパーやゴムベラを握りすぎて皮膚が厚くなったその手は、もはや菓子職人の手。
けれども、その厚さが男性らしさを際立たせ、寒さとは違う理由でぶるりと震える。
「は…ぁ……、トレイ……ッ、んん……!」
ようやく離してもらえた唇で彼の名前を呼んでみたが、首筋に噛みつかれて嬌声へと変わってしまう。
こんな目立つ場所にキスマークをつけられたらどうしよう……と一瞬不安になったけれど、そんな愚挙をトレイは冒さず、薄い皮膚を舐め、痕が残らない程度にやんわりと吸うだけ。
熱い舌と唇の感触にヒカルの心拍数が上がったが、大胆さでいうならトレイの手が一番で、徐々に這い上がってきたそれはホックが外れた胸の膨らみにまで到達した。
「ん、ぁ……、ダメ……。」
「……なにがダメなんだ? ここをこうして触ることか?」
「ひぅ……ッ」
言いながら、浮いた下着の中に潜り込んできた手が膨らみを直に掴む。
指と指の間に挟まれた胸の先端が、意図せずにきゅっと勃ち上がった。
「なにがダメだか、言ってくれないとわからないぞ。」
「ん、嘘つき……!」
いちいち説明しなくても、トレイならばヒカルの心をわかっているだろう。
それをあえて言葉に出させようだなんて、鬼畜以外の何者でもない。
「……柔らかいな。」
「や、言わないで……ッ」
「それに、先っぽが硬くなってる。気持ちがいいのか……?」
「だから、言わないでって……!」
ヒカルは覚えていなくても、これは初めての行為ではないはずだ。
恐らくは何度も触れているはずなのに、わざわざ感想を口に出す意味がわからない。
優しく揉み上げる手つきはなにかを探るようで、なんだか擽ったい。
燃えるような羞恥とほのかに見え隠れする快感を誤魔化すために、目の前に茂るトレイの新緑色の頭にぐっと顔を押しつけた。