第5章 御都合ライアー!【トレイ】
教室の向こうから、誰かの笑い声が聞こえる。
扉一枚隔てた廊下では、昼食を終えた生徒たちが和気あいあいと談笑しているというのに、ヒカルはいったいなにをしているのだろう。
「トレイ……ん……ッ」
いつまでも続くキスを止めさせたくて開いたはずの隙間に、ぞくりと震えるほど熱い舌が押し入ってきた。
こら、ダメでしょ!という気持ちを込めて舌でそれを押し返せば、ちゅくりと絡み取られて口づけが深まる。
違う、そうじゃない!と抗議したくても、吐息ごと唾液を啜られてしまったら、声なんて発する余裕がなくなった。
「ふ…ぅん……ッ」
鼻から漏れた掠れ声がやけに甘ったるく、本当に自分が発したものなのかと驚いた。
強請っているかのような声色に反応したのはヒカルだけではなく、背中を抱いていたトレイの腕がなにかを探して服の上を滑る。
トレイが目的のものを探し当てたのと、ヒカルの胸を締めつけるものが外れたのは、ほぼ同時。
「んん……!?」
ぎょっとして胸に手を当ててみれば、下着がふんわり浮いている。
分厚い作業着の上から、背中のホックを外されたのだ。
(この人、手馴れてる……!)
あの真面目そうなトレイが、女性の下着のホックをいとも簡単に外せるなんて、いったい誰が想像できようか。
唇を塞がれたまま、あわあわと慌てふためいていると、一仕事終えたトレイの手が上着の裾を捲って忍び込んできた。
「ん、んんぅ……!」
ああ、どうしてツナギタイプの作業着にしなかったんだろう……と考えたってどうにもならず、大きな手のひらは大胆にもヒカルのインナーを引っ張り上げ、汗ばんだ肌を直接まさぐる。
まさかの展開に目をぐるぐる回すヒカルを、至近距離からトレイが愉しげに見つめていた。