第5章 御都合ライアー!【トレイ】
とても今さらだけど、用務員であるヒカルの服装はクロウリーから支給された作業着だ。
ナイトレイブンカレッジの校章が刺繍された作業着は上下別タイプ、ツナギタイプとバリエーションがあるものの、可愛さの欠片もない。
今までそれを気にしたことはなかったが、ここにきて初めて、薄汚れた作業着でいる自分を恥ずかしいと思った。
「ね、下ろして。わたしの服、あんまり綺麗じゃないから、トレイの制服が汚れちゃうよ。」
トレイと約束をしてから昼休みまで、汚れそうな仕事はなるべく午後に回してきた。
けれども広大な敷地を有する学園を駆け回るヒカルの作業着は土埃を吸っていて、ピシッと決まった制服を汚してしまいそうで気が気じゃない。
「気にするな、洗浄魔法は得意なんだ。俺だって、制服のままケーキを作ったりするからな。……ほら。」
トレイがマジカルペンを振ると細かな光の粒子が生まれ、ヒカルの作業着に吸い込まれていく。
数日前に汚してしまった袖のシミが消え、午前中に吸った汗もどこかへ消えてしまう。
洗濯機を使わずとも綺麗になる、魔法の神秘。
「これで気にならなくなっただろ……?」
「あ、ありがと。でも…――」
服の汚れなんて、膝から下ろしてもらうための口実だった。
汚れが落ちようが落ちまいが、トレイの膝に乗っている体勢に抵抗があるのは変わらず、さらなる言い訳を探して口を開いた。
しかし、ヒカルがなにかを言う前に、背中を抱いた腕に力がこもって、トレイの顔が近づいてきた。
「お喋りは、終わりだ。」
昼休みにお喋りをしないのなら、いったいなにをするのだろう。
その答えは、噛みつくように塞がれた唇が教えてくれた。