第5章 御都合ライアー!【トレイ】
手作り弁当を食べながら他愛ない話をして、和やかな昼休みを過ごしていると、まるでヒカルまで学生に戻ったかのような気分になる。
こんな青春、本当の高校生時代では味わった経験がないけれど。
「ヒカル、こっちにおいで。頬にソースがついてる。」
「え、やだ、ここ? 取れた?」
「違う、反対。拭いてやるから、こっちに。」
子供のようで恥ずかしいが、生憎と鏡を持っていなかったため、お言葉に甘えてトレイの傍に近寄った。
「ほら、屈んで。」
椅子に座るトレイが拭きやすいよう屈んだら、ヒカルの口もとを拭くはずだったその手が、後頭部を掴んでぐいっと引き寄せる。
「ん……ッ」
ヒカルの唇を拭ったのは、冷たい布巾なんかではなく、少し熱い体温の唇。
湿ったトレイの唇は、ねっとりと絡みついてヒカルの唇全体を濡らす。
下唇に吸いつき、舌を差し入れては歯列をなぞって頬の内側を擽る。
絡みついた舌は抵抗を許さず、くちゅりくちゅりと卑猥な水音が響く。
「ん、はぁ……。なに、するの。いきなり……。」
涙目になってしまった瞳で睨み上げても効果は薄い。
飄々とした態度のトレイは、濡れた唇の端を親指で拭いながら肩を竦めた。
「なにって、ソースを取っただけだよ。ほら、綺麗になった。」
「……嘘つき。ソースなんて、最初からついてなかったんでしょ?」
「バレたか。」
トレイは案外嘘つきだ。
少しも悪びれずに白状したあと、両手をヒカルの背中に滑らせ、強引に抱き寄せては自身の膝に座らせる。
「ちょ……、なにしてんの。」
「ん? まだ時間は残ってるだろ? せっかくの昼休みなんだ、休まないともったいない。」
「どういう理屈なの、それ。」
昼休みは休むためにあるもの。
けれど、彼氏の膝に向かい合わせで座らされたら、休めるものも休めない。