第5章 御都合ライアー!【トレイ】
互いの弁当を交換するという奇妙な図が完成したものの、育ち盛りの男子高生にはヒカルの弁当では足りなさすぎる。
あっという間におにぎり二つと卵焼きを食べ終えたトレイは、テーブルに頬杖をつきながらヒカルを見つめてきた。
「美味いか?」
「うん、すっごく美味しいよ。このアボカドとエビのサンドイッチ、ほんとに絶品!」
「それはよかった、たくさん食べてくれ。」
ヒカルは大食いではないので、二人分の弁当を平らげることはできない。
しかし、トレイは一生懸命サンドイッチを咀嚼するヒカルを眺めてばかりで、自らの弁当に手を伸ばそうとしなかった。
(記憶を失う前のわたしって、そんなに欲張りだったのかな?)
トレイが遠慮するほどの強欲魔人だったのだとしたら、そこは改善しておきたいところである。
美味しいものは独り占めするのではなく、みんなで分け合ってこそ美味しく感じるもの。
なので、ヒカルはサンドイッチの中から食べやすそうなものをひとつ取って、彼の口もとへ運んだ。
「はい、トレイもどーぞ。」
元々はトレイが作った弁当。
当然彼にこそ食べる権利があるのだと思って差し出したら、眼鏡の奥でアイビーグリーンの瞳が驚いたように瞬いた。
「あれ、どうしたの? もしかして、あんまりお腹空いてない?」
「いや、そんなことはないが……、少し、驚いて……。ヒカルも、そういうことをするんだな。」
「そういうこと?」
ヒカルは今、トレイにサンドイッチを食べさせようと差し出している。
手渡しするのではなく、直接食べさせようと口もとへ運ぶそれは、まさしく“はい、あーん”の状態だ。
「あ、嫌だった? ごめんね、人が触ったものとか、気持ち悪いよね。」
「ち、違う。そうじゃないんだ。ただ少し、意外だっただけだよ。」
そう言って、僅かに頬を染めたトレイは引っ込めかけたヒカルの手首を握り、サンドイッチに齧りついた。
(……キスもセックスもしてるのに、今さらこんなことに照れるのって可愛いな。)
それこそ、付き合いたての初々しいカップルのよう。
年相応に照れるトレイを可愛いと思いながらも、心の片隅ではどこかちぐはぐは違和感を覚えていた。