第5章 御都合ライアー!【トレイ】
生ハムやサーモン、チェダーチーズや自家製ピクルスを挟んだカラフルなサンドイッチ。
スパイシーなフライドチキンは温かく、オリーブと黒胡椒が香るマリネサラダはひんやり冷たい。
「そんなに驚くようなことか? 温度保持の魔法はミドルスクールで習うくらいの初級魔法だぞ。」
魔法が当たり前に普及しているこの世界は、ヒカルの常識が通用しない。
バスケットになにか秘密があるのかと興味津々で尋ねたら、そんなふうに笑われてしまった。
「あ、じゃあ、わたしのお弁当に保冷魔法みたいのかけられる? 捨てるのももったいないから、夜ごはんにしようと思って。」
蓋を閉めたタッパーを差し出すと、トレイは快く受け取ったが、ヒカルの要望に応えるためではないようだ。
パカッと蓋を開けたトレイは、ちょっぴり歪な三角形のおにぎりを手に取ってラップを剥がす。
「夕飯なら、あとで俺が差し入れてやる。だから、ヒカルの手料理、俺がもらっても構わないだろ?」
「え、でも、それは手料理って呼べるほどのものじゃないし、食べられるのは恥ずかし……って、あ!」
まだ一言もあげるだなんて言っていないのに、不出来なおにぎりにぱくりと齧りつかれてしまう。
トレイの一口は礼節を重んじる寮の副寮長に似合わず大きく、三分の一程度が飲み込まれていった。
「うん、美味いな。」
「……どうもありがとう。」
「なんだよ、信じてないのか? 本当に美味いぞ?」
「トレイみたいに料理スキルが高い人に褒められてもな~。まあ、ただのおにぎりだから不味くはないだろうけどさ。」
おにぎりの奪還は諦めるが、素直に称賛は受け入れられない。
相手がデュースやジャックならばともかく、料理もお菓子作りもプロ級の人に褒められても、お世辞としか思えなくて苦笑いをした。
「料理の上手い下手なんて関係ないだろ。好きなやつが作ったものなら、どんなものでも最高に美味く思えるよ。」
「それ、トレイが言うセリフ?」
「ん? なにかおかしなことを言ったか?」
「……いや、別に。」
愛情が込められていれば美味しくなるなんて、トレイが一番言わなさそうなセリフ。
それとも、ヒカルと付き合うようになって、トレイの中でなにかが変化したのだろうか。
もしそうなら、嬉しいとは思うけれど。