第5章 御都合ライアー!【トレイ】
「悪い、待たせたか?」
科学準備室に入ってきたのは、ヒカルの待ち人であるトレイだった。
例え、違う誰かが入ってきたとしてもいくらでも誤魔化せるが、トレイの顔を見ると安心する。
「ううん、そんなに待ってないよ。」
「そうか。これでも急いで来たつもりなんだが、ずいぶん早かったな。」
「そ、そう?」
なにせ、ヒカルが来たのは昼休み前だ。
なんでもないトレイの指摘が、「いったいどれだけ楽しみにしてたんだ?」と聞かれたようで、手のひらに羞恥の汗が滲んだ。
「わたしは、みんなと違って授業がないから……。」
揶揄われているわけでもないのに言い訳をしてしまうのは、まだまだヒカルが素直になれない証拠。
「それもそうだな。ほら、こっちにおいで。昼飯にしよう。」
ヒカルよりもずっと心が大人なトレイは教室の隅にあった椅子を引き、手招きをして持参した弁当を広げる。
さすがはナイトレイブンカレッジで一二を争う料理上手、すべてのおかずが美味しそうだ。
対して、ヒカルの弁当はおにぎりと卵焼き、彩りでプチトマトを添えただけの非常に粗末なもの。
一人暮らしをしていた以上、料理スキルはゼロではないが、誰に食べさせるわけでもないので手が込んだものは作れない。
(購買で買ってくればよかったかな……。)
昼食を共にすると知っていたら、もう少し頑張ったかもしれない。
タッパーに詰めただけの女子力が微塵もない弁当を、出すかどうかも迷う。
「……ん、それ、ヒカルが作った弁当か?」
「う、あ……、はい、そうですけど。」
「ハハ、なんで急に敬語なんだよ。どれ、見せてくれ。」
こうなっては、もう逃げられない。
腹を括ったヒカルは、恐ろしく完成度が高いトレイの弁当の横に、庶民感が漂うタッパーをちょこんと置いた。