第5章 御都合ライアー!【トレイ】
「本当によく気が回る人だね、トレイは。」
ユウが確保してくれた椅子に座りながら、しみじみと呟いた。
ふと視線を感じて顔を上げれば、真ん丸に瞳を見開いたエースと目が合う。
「……なに? 変な顔して。」
「いや……、なんでいきなりトレイ先輩のこと呼び捨ててんのかな~って。」
「えッ!?」
あまりにもびっくりしたから、木製の椅子がガタンと大げさに音を立てた。
だって、ヒカルはトレイの言葉を信じていたのだ。
「そういえばそうだな。前はクローバー先輩のことを“トレイくん”と呼んでいたような気がするが……。」
「え、あ、あー……、そうなんだ?」
デュースにまで突っ込まれ、ヒカルの視線は上下左右にちょろちょろと動き回る。
つまり、あれか。
呼び捨てていたのはトレイと二人きりの時だけで、みんなの前では“トレイくん”と呼んでいたわけだ。
内緒で付き合っていたのなら不思議ではないけれど、それならそうと説明しておいてほしい。
「な、なんでだろうね~。なんか、トレイって呼んでたような気がして~。」
呼んでしまったものはしょうがないから、ここは無理やりにでも突き通したい。
今後も同じようなミスを繰り返す自信があるからだ。
「もしかして、ヒカルはいつも心の中ではトレイ先輩のことを“トレイ”って呼んでたのかもしれないね。」
「あ、うん、そうかも!」
まったく違うユウの推測に頷いたのは、なんでもいいので理由が欲しかったから。
その適当な判断が、エースに疑惑を抱かせるとは知らずに。
「なあ、それって……。」
エースがなにかを言いかけた時、ヒカルたちのテーブルにふと影が差した。