第5章 御都合ライアー!【トレイ】
ヒカルの上から退いたトレイは、腕を引いて身体を起こしてくれた。
乱れた胸もとに咲いた花を凝視され、擽るように撫でられた。
その優しく軽い愛撫に、ヒカルの肌がぞわりと粟立つ。
ヒカルが知っているトレイは、お兄ちゃん気質で、真面目な優等生で、真面目さゆえに損な役回りも多く、けれど周囲のヴィランたちに負けないほどのキレ者。
きっと、ヒカルの見解は間違っていない。
ただ、ヒカルが知らない一面を彼が持っていたというだけ。
例えば、寮の規則を破ってまで恋人に会いにくる情熱を持ち合わせているだとか、真面目なイメージを裏切るほどの情欲を持ち合わせているだとか。
「ここ、他のやつらに見せちゃダメだぞ?」
「言われなくても、こんな際どいところまで開いた服なんて着ないよ。」
「ハハ、そうだったな。」
満足そうな笑みを浮かべながら、トレイの手によって外されたボタンをひとつひとつ留められた。
なんてことのないセリフの裏に隠された確かな独占欲も、ヒカルが知らなかった一面。
「さて、どうしようか。どんな話が聞きたい?」
ヒカルの恋人は、身体を重ねないからといって早々に退散するような男ではないらしい。
後ろ向きに抱き寄せられて、長い脚の間にちょこんと座る。
恋人でしかありえない距離と体勢に身悶えながら考えられることなんか、そう多くはなかった。
「なんでも、いい。わたしの知らないこと、なんでも話して。」
「うん、そうか……。なにから話せばいいかな。」
悩みながらもトレイが口にする話は、もちろん自分たちの話。
お忍びデートの行き先や、初めてのキス。
2章のマジフト大会、3章の期末テスト、4章のホリデーの裏には、原作では語られないヒカルとトレイの物語があった。
彼の口から明かされる恋物語はどれも酔いそうなほど甘く、ヒカルの想像と妄想を掻き立て、羞恥ゆえの憤死にいたるには十分すぎる原因だった。