第5章 御都合ライアー!【トレイ】
首筋を舌先で擽られ、滑る唇がどんどん下へ落ちていく。
いつの間にかシャツのボタンは三つ外されていて、胸の膨らみと下着のレースがちらりと覗いた。
「ひぅ……ッ」
シャツの上から大きな手のひらで片側の膨らみを揉まれ、喉の奥がひっくり返る。
悲鳴にも似たそれは当然トレイの耳にも届いたようで、シャツと胸の合間に唇を寄せていたトレイの動きが止まった。
「ヒカル……。」
名前を呼ばれただけで、怖いか?とは聞かれなかった。
聞かれなくても、答えがわかっているから。
「……悪い、無理をさせたな。」
「そ、そんなこと……。」
「いや、いいんだ。俺がちょっと……、性急すぎた。」
胸から顔を離したトレイが、ゆっくりと首を左右に振る。
それはつまり、今夜はこの先に進まないと言っているようなもので、つい安堵の息を吐いてしまう。
脱処女を切に望んでいても、身体が経験済みであったとしても、怖いものはやっぱり怖い。
気持ちが明け透けなヒカルの様子をどう思ったのか、一度顔を上げたはずのトレイが、再びヒカルの胸に唇を寄せた。
「え、あ……ッ」
ちくりと鈍い痛みを感じ、思わず戸惑いの声を上げてしまうヒカルは、やはり夜の営みに慣れない女だっただろう。
そんなヒカルに構わず、デコルテの奥、人目に触れないような胸の内側に吸いつかれ、消えない痕を残される。
ねっとり濡れた唇が離れ、あとに残ったキスマーク。
たったひとつのキスマークは、白い肌の上で薔薇の如く真っ赤に咲いた。